【井熊コラム#10】アメリカ大統領選と日本にとって重要なこと

· 井熊コラム

アメリカの大統領選でドナルド・トランプ前大統領が事前の予想を上回る票差で当選しました。前回の大統領時代の政策や過激な発言もあり、世界中が戦々恐々として新トランプ時代に備えています。

バイデン大統領時代の政策が大きく修正されることは間違いないでしょうが、トランプ大統領が民意を無視して政策を展開する訳ではないでしょう。一定の民意を反映したのが今回の大統領選の結果である、という捉え方が大事です。民主主義陣営の盟主であるアメリカで何が起こっているかを知れば世界市場の将来が見えてきます。

日本にとってもう一つ重要なのは、世界における日本の位置づけを見据えることです。ファーストリテイリングの柳井会長兼社長は2012年に「現実を視よ」という本を刊行されました。世界第二の経済大国だった時代の幻影を捨て去れない日本への警告とも言える書でした。自らの立ち位置に対する厳しい目線を持たれていることが、その後の同社の成長を支えたのでしょう。

今回の大統領選の結果は、1980年代から続いてきた経済成長志向やグローバル化の路線が修正を余儀なくされていることを示していると考えています。どんなに優れた政策や思想にも副作用はあります。他論を論破し続け一元的に路線を進めれば、副作用は抑えきれないレベルに達します。そうなっているにもかかわらず、40年間の路線を修正する論調が強まらない現状に懸念を覚えます。

日本にとってもう一つ重要なのは昨今の円の動向です。一時160円に達した対ドルレートは、日銀が利上げしても一時的に140円台に戻すのがせいぜいで、再び円安に向かうことも予想されています。今後欧米が金利を引き下げても、かつての110円台に戻ると考える人は殆どいません。それだけ日本の経済価値の低下は修正が効かなくなっているということです。

悲観論に聞こえるかもしれませんが、我々は「現実を視て」政策や企業戦略を展開していかなくてはなりません。グローバル展開では、これまでのような世界地図を見たサプライチェーンからブロック化への転換が必要になるでしょう。円安が続く一方で、日本の丁寧なモノづくりやサービスが評価されているのであれば、日本ならでは質感を活かしたモノづくり、コトづくりが有効なはずです。厳しい時代ではありますが、為政者や経営者にとって腕の見せ所と言える時代でもあると思うのです。