【井熊コラム#6】日本のデジタル競争力とテレワーク実施率

· 井熊コラム

IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development) が発表した2023年度版の世界デジタル競争力ランキングによると1位はアメリカで、2位オランダ、3位シンガポールと続き、アジアでも香港、台湾、韓国が10位内に入っています。これに対して日本は前年よりさらに3ランク下げ32位に留まっています。技術的枠組みでは一定の優位性があるものの、ビジネスの俊敏性、規制、人材などが順位を下げる原因になっています。

一方で、野村総合研究所が行った2022年のテレワーク実施者の比率を見ると、アメリカやイギリスが約50%、ドイツやスイスが約40%であるのに対して、日本は約20%に留まっています。確かに、コロナが5類に変更される前に比べると、通勤電車もかなり混むようになっています。

IMDの評価とテレワーク実施率の間には相関性があると思います。

首都圏では、多くの人が満員電車に揺られて通勤し、会社に着いた時には多かれ少なかれ疲労を感じています。気候変動で猛暑が常態化すれば、疲労感が一層高まることになるでしょう。最近、日本人の睡眠時間の短さが問題視されており、生産性を上げるためには十分な睡眠を確保することが必要とされます。定型的な業務はAIに任せ、人間は付加価値の高い仕事に取り組むようになるので、こうした傾向はますます強くなっていきます。

睡眠時間に関する議論は、疲労感のある状態で仕事に取り組むべきではないことを意味しています。そう考えると、自宅にいながら資料の共有、作成、会議ができるテレワークは実に便利です。にもかかわらず、オフィス回帰の動きが顕在化しているのは、集まって仕事をした方が効率が上がると考える人が相当程度いるからです。対面で話をした方が交流が深まるのは当たり前のことですが、コミュニケーションや情報交換の仕方を工夫すれば解決できることはたくさんあります。また、テレワークにAIやVRが組み合わさっていけば、将来は対面の優位性もどうなるか分かりません。

新しい技術がもたらす可能性を捉えようせず旧態の効果を一面的に肯定する。これこそが日本をデジタル競争力後進国に留める原因だと思うのです。