政府は新しいエネルギー基本計画の検討を進めています。今回の計画で注目しているのは、将来のエネルギー需要をどのように見るか、原子力発電をどのように位置づけるか、です。主要国では電気自動車の普及と水素生成のために、2050年までにかなりの需要増を見込んでいます。これに加え、最近データセンターなどのデジタル基盤が需要源としての位置づけを高めています。
日本は主要国に比べて電気自動車や水素生成のための需要増を保守的に見込んで来ました。需要が大きくなるほど再生可能エネルギー比率の向上などが難しくなるからでしょう。電気自動車、水素、デジタル基盤はエネルギー需要の増加要因ですが、見方を変えると、成長戦略に欠かせない社会インフラでもあります。エネルギー需要が増えるということは、車の電動化、脱炭素燃料の普及、デジタル化が進むことに他なりません。近年経済面での劣勢が目立つ日本は、これらによるエネルギー需要を積極的に受け入れなくてはならないはずです。エネルギー計画の辻褄を合わせるためにエネルギー需要を小さく見込むことは、日本の成長の足かせ作ることになる可能性もあります。
一方、世界的に見るとリアリティのあるエネルギー計画を作るために、原子力発電を受け入れようとする傾向が強まっています。日本でも、既存の原子力発電の運転再開、リプレース、さらには新規建設の議論を避けられなくなるでしょう。原子力発電については過去の反省を真摯に踏まえ、高度な安全性を求めることが不可欠なのはもちろんです。それと同時に重要なのは、日本がどのような国を目指し、どのような社会インフラが必要になるのかを国民に説明し、選択肢を提示することです。目指すべき姿に対するコンセンサスが取れていない中で、原子力発電の是非を問うことはできないはずです。
リスクを全く伴わないエネルギーはないと言っていいでしょう。それを知った上で、目指すべき将来像を実現するためにどこまでリスクを取るべきなのか、を議論できる成熟した政策形成プロセスを期待します。