昨年まで盛り上がっていたEVの導入機運がトーンダウンしています。アメリカは2030年代前半のEV導入目標を引き下げました。自動車会社でも生産計画、開発計画の見直し等が相次いでいます。背景にはEV販売の減速があります。急速な導入を支えたアーリーアダプター向けの需要が一巡したためとされています。
私は「ゼロカーボノミクス」という書籍で、2020年代の後半に「EVデスバレー」がやって来ると述べました。多くの自動車メーカーが「2030年辺りを目標に完全EV化を目指す」といったアグレッシブな目標を掲げる一方で、EVの需要が高まっていないと思えたからです。充電時間、蓄電池の耐用年数、航続距離といったEVの課題が根本的に解決される見込みが立っていなかったこともあります。
脱炭素については、「産業革命を支えた化石燃料のエネルギー源としての偉大さを理解すべきだ」と指摘してきました。高いエネルギー密度を持ち、常温常圧での可搬性と保管性に優れた化石燃料が、エネルギーを自由に使える世界を創り出し、産業革命へと繋がったからです。これに比べると、蓄電池のエネルギー密度はガソリンより桁違いに低く、再生可能エネルギーは可搬・保管性で大きく劣ります。
短期的には気候変動、長期的には資源の枯渇を考えると、今世紀中に化石燃料に依存した社会システムから完全に脱却しなくてはなりません。問題はそのプロセスをいかに見極めるかです。社会変革はブームと失望を繰り返して達成されるものだからです。前掲「ゼロカーボノミクス」では、「(EVが将来大きく伸びるのは間違いないが)2020年代はHVでしっかり稼いで、市場を冷静に見られるようになる2030年頃に割安になったEVメーカーを買えばいい」と述べました。トヨタは脱炭素に向け全方位で技術を開発してきました。EVへの失望もあり最近HVの注目度が改めて高まっていますが、全方位戦略を取ってきたトヨタの優位性は一層高まることになるでしょう。
ブームに踊らず変革の果実を確実に手にするために必要なのは、技術の本質をしっかりと見極めブレずに投資を続ける姿勢なのだと思います。